2.裏切りの聖女 ほどなくして、リビングに唯美と封隼以外のメンバーが全員顔を揃えた。 唯美はまだ帰ってきておらず、封隼は病室で眠っている。 「仕事の内容は?」 「何か、諜報員の仕事回されてるっぽい」 哉人がユーリから来ていたメールをプリントアウトし、翔に渡す。 そこに書かれていたのは北部の武装集団将軍であるマーチス=ハーモンドと いう人物を暗殺して欲しい、という内容だった。 武装集団の、人間部隊の将軍だという。その地位を利用して多くの民間人を 殺して金品を奪い、若い娘は自分の屋敷に囲い物にして飼い殺しているのだと。 「うわ。悪どい」 その時、珍しくリリィが優しい顔をしかめていて、絵麻はびっくりした。 リリィのこんな表情は見た事がない。 「リリィ?」 呼ぶと、彼女ははっと顔を上げ、メモ帳に綴った。 『こういう話は、何ていうか苦手なの。汚れているみたいで』 「汚れて……」 確かに、耳をふさぎたくなる話である。 「でも、何で暗殺?」 暗殺系統は唯美たちの仕事でしょ? とリョウが問いかける。 「唯美たち忙しいみたいだし、武装集団の将軍だし……その辺かも」 「で、どうする?」 「どうするって?」 「唯美と封隼がいないし、信也とリョウもまだ無理だろ? 4人抜けられると ちょっとキツいよ」 そうなのだ。 移動担当の唯美と、攻撃力の高い封隼と信也。回復役のリョウが前線に出ら れない状態なのだ。 「あ」 「……ピンチ?」 「別に俺はいけるけど」 「無理するなって」 「そうだよ。無理は絶っ対ダメ! リョウさんも」 シエルとアテネがかわるがわるに口を挟む。 「けど、あたし行かなかったら」 「怪我しないようにするから大人しくしてて。リョウが倒れたら元も子もない んだから」 翔にも諭され、リョウは渋々頷いた。 「でも、ついて行くからね? それはいいでしょ?」 「そういえばどうやって行くの?」 いつもは唯美の瞬間移動でいろんな場所に入り込んでいる。けれど、彼女は いない。 「……鉄道?」 「どこの世界に鉄道で暗殺に行く秘密部隊がいるのよ」 「ここに」 だって他に方法ないよ? と翔が言う。 確かにその通りだった。