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 次の場面は、貧しい町並みだった。
 時間は夜で、吹きすさぶ風は氷の冷たさだ。家々の窓には灯るあかりがこと
さらに暖かそうに見える。
 そんな中を、1人の少年が歩いていた。
 ぼろぼろになった服を着た、プラチナの髪の少年。着の身着のままといった
感じで、ひどく薄汚れてしまっている。髪もぼさぼさだ。
 ひとつだけ特徴的なのは、少年が隻腕だということだ。破れて取れかかった
右袖からのぞく腕の残骸はひどくいびつで醜い。
 少年は残された左腕で民家の扉を叩いて回っていた。
「すみません……」
 最初は愛想よく応対にでた住民も、少年のいで立ちに誰もが顔をしかめる。
「何だい? こんな夜に」
「食べ物……わけてもらえませんか」
「はあっ?」
「もう何日も……食べてないんです。お願いします」
「ふざけるんじゃないよ」
 住民の態度は刺々しかった。
「この戦乱の世の中、どこに食べ物わけてやれる余裕のある人間がいるってん
だい」
「だったら、今夜軒下貸してもらえませんか? ……寒いんです」
「そのまんま凍死しちまいな」
 住民はとりつくしまもなく言うと、少年の鼻先でぴしゃりとドアを閉めてし
まった。
「……」
 その後も少年は町の端から端まで民家の扉を叩いて回ったのだが、貧しい北
部の町のこと。少年を受け入れてくれる家はなかった。
「ここもダメか。何日絶食すればいいんだろうな」
 もう何日食べていないんだろう。
 3日……5日? 1週間?
 少年はぽつりと言うと、そのまま町の端に積んであったワラづかの横に倒
れた。
 ワラがほんの少し、お情け程度に風を防いでくれる。今夜はここで野宿だろ 
う。
 このワラづかにも持ち主がいるだろうが、朝早く発てば問題ないはずだ。
 空腹を抱え込んで、少年は灰色に曇った空を見上げる。
「……アテネ」
 薄汚れた頬を、涙が伝う。
「いつになったら、兄ちゃん、アテネと暮らせるようになんのかな……」
 金があれば、こんなみじめな思いをすることもないのに。
 自分が金持ちだったら、妹を手放さずにすんだのに。
 どれだけ無下に扱われても泣かなかった少年の目から、涙があふれる。
 そこで、場面がぱちりと切り替わった。
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