絵麻は目を開けた。
一面の暗闇がそこにある。
全身がくたくたに疲れ果てていた。
あの日のように。何時間も声がかれるまで泣いた、16歳の誕生日のように。
心の中がずきずきと痛い。
あぶり出された古傷の痛みが、絵麻の心の底を焼いている。
絵麻は痛みから逃れるように歩きだした。
けれど、歩いても、歩いても抜け出せなかった。
無限の暗闇が広がるばかり。
振り返ってみる――真っ暗だ。
歩いてみる――真っ暗だ。
どこまで行っても真っ暗で。もうどこにも出られないような気がして。
心がつぶれてしまいそう……。
「ねえ、もう止めて」
疲れ果てた絵麻の声が暗闇に落ちる。
「お願いだから、こんなのみせないで」
瞳に涙が浮かぶ。
「お願い……」
頬をしたたった涙が、闇の中で微かに光った。
「もう終わりにして。だって、わたしは死んだんだから……」
握った手で涙をぬぐう。その手の中のペンダントに、涙がふれた。
と、拳の間から淡い虹色の光が生まれた。
光は暗闇の中をふわふわと漂い、絵麻の目の高さに浮かび上がる。
「……?」
(オワリニシタイ?)
光は漂いながら、絵麻に問いかけてくる。
言葉ではない。頭の中に直接響く、意志のようなもの……。
「……終わらせてくれるの?」
(アナタハココデハオワレナイヨ)
「え?」
(アナタは“ぴーしーず”ダカラ)
ゆらゆらと漂う光。
光は角度を変え、善意のようにも悪意のようにもとれる輝きで絵麻をみつめ
た。
(アナタニハ、マダナスベキコトガアル)
「わたしの……なすべきこと?」
(“オオイナルナガレ”ノナカニイキナサイ)
光が、するりと絵麻の胸の中に入りこむ。
奇妙な、体の中がひっくり返るような感覚が絵麻を襲った。
「……!」
(アナタハ“スベテ”ヲシルヒツヨウガアル)
声は遠く遠くで聞こえた。
天地が反転しているような感触を最後に、絵麻はまた意識を失った。