そして、夜。 「グラタンの準備できたでしょ、冷蔵庫にスモークビーフのサラダも入ってる し、これで歓迎の準備は完璧」 台所で指さし確認している絵麻の姿に、シエルが苦笑いして。 「別に歓迎しなくていいって。それより、足手まといにならない方の準備はで きてんのか?」 「大丈夫だよ。今度は唯美が塀の中までテレポートしてくれるんでしょ?」 「まあ、そうだけど」 「おーい、行くよ」 玄関とつながっている戸口から、唯美が顔をのぞかせた。 「わかった」 絵麻はカウンターに置いておいたウェストポーチを取ると、シエルと一緒に 玄関へと出て行った。 「いい、唯美がいるからって油断しないでよ。絶対に気をつけてね」 待っていた翔が声をかける。 「翔、また?」 「お前って心配症だったんだな」 「えー? 信也だってリョウだって見送りに来てるじゃないか」 からかわれて、翔はむくれてみせたのだが。 「あたし達は今帰って来たとこよ」 あっさりとあしらわれてしまう。 「リョウ。オーブンお願いしてもいい?」 絵麻はグラタンを焼くのをリョウに頼んだのだが、返ってきた返事は何とも あやふやなものだった。 「えっと……温度は何度だっけ? 何分くらい焼けばいいの? 10分?」 「250度で5分だけど、焼き色がついたころをうまく見計らって」 「や……焼き色?」 「ムリムリ。リョウは料理オンチだから。俺がやっとくよ」 混乱のステータスがかかってしまったリョウに、信也が声をかけた。 「あ、じゃあお願い……」 が、リョウの方はその人選が不服だったらしく。 「えー?! あんただって時間忘れるじゃないのさ」 「でも、ガキのころから料理できなくて、いつもうちに食いに来てたじゃん」 「あれはおばさんがいつでも食べにいらっしゃいって誘ってくれてたから! そーゆーあんただって何回も時間忘れてお鍋ふきこぼしてたじゃない」 「そのくらい、誰だって一度や二度は失敗するだろうが?!」 「あんたは10回や20回ザラでしょ?!」 「……」 ひょっとしてとんでもない人々に話を振ってしまったのではないだろうか。 絵麻が青ざめていると、騒ぎをききつけた救いの主、リリィが奥から顔をの ぞかせた。 「リリィ〜〜〜っ!」 「???」 諸事情を説明すると、リリィは快く頷いてくれた。 「ありがと! リリィなら大丈夫だよね」 「・・・・・・・。・・・・」 リリィが玄関の方を示す。 そこには待ちくたびれた様子の年少組トリオがいた。 「絵麻。もう済んだのか?」 哉人の声が刺々しい。 「ごめんごめん。もう行く」 「絵麻、本当に気をつけてね」 「っていうか全員気をつけろよ。今回失敗したらそろそろユーリから小言もらっ てもおかしくないし」 「リリィ、封隼のこともお願いね」 唯美が言って、リリィが頷くのを確認してから水晶を取り出す。 「よーし、行くよ!」 水晶から光がほとばしり、そして……。