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3.思い出

「失敗したって?!」
「あの簡単そうな屋敷で?」
「何やったんだ?  ケンカしてみつかったとかじゃないだろうな?」
「あのな」
  信也とリョウにダブルで追及され、すっかりふてくされた哉人がソファに
ひっくり返りながら答えた。
「あの屋敷のどこが簡単なんだよ?!  高圧電流は走ってるし、罠はあるし、
武装兵はいるしで散々だったんだぞ!!」
「え!?」
「本当に?」
「絵麻、大丈夫だった?!」
  翔がおろおろと視線を絵麻の方に向ける。
「うん。わたしは平気。アテネちゃんが助けてくれたから」
「あてね?  それ誰?」
「えっと……」
「そうだ。シエル」
  ソファでひとしきりふてくされた後、哉人は体を起こして、黙ったまま突っ
立っている相棒に声をかけた。
「あの、アテネって子。どういう関係だ?」
「……」
  シエルは唇を噛んで答えない。
「妹なんでしょ?!  どうして貴族の屋敷になんかいるの?」
「……妹じゃない」
「嘘!  だってアテネちゃんは『シエルお兄ちゃん』って……」
「違う!  オレに妹なんかいない!!」
「こら」
  言い合いになった絵麻とシエルの間に、信也が割り込んだ。
「帰ってきて早々にケンカすることはないだろ」
「そうよ。それにシエルのこれ……血?  ケガしてるの?!」
  リョウの目がぎらっと光る。
  シエルはあわてて服をかかえてあとずさった。
「違う!  返り血返り血」
「本当に?  そういって肋骨が折れてるとかいったら承知しないわよ?!」
  リョウはパーカーを脱がせようとするのだが、シエルはそれを避けてしまう。
「脱がせてんじゃねえよ!  オレは着せ替え人形か」
「何よ。下に何も着てないわけじゃないでしょ?」
「……」
  そういえば、シエルが長袖以外の服を着ているところを絵麻は見たことがな
い。
  いつもいつも長袖。暑いかなと思える時期も、彼は長袖を着ていた。
「大丈夫だろ。シエルの場合単純だから、隠すような芸当できないって」
「言ったな信也?!」
「あーーー!!  話が全然見えない!!」
  翔が大きな音をたてて机を叩いたので、場が急に静まり返る。
「とにかく、落ち着いて説明してよ。アテネっていうのは、シエルの妹?」
「ちが……」
  シエルの声が元気なくうなだれる。
「調べればわかるよ?  脅すつもりはないけど、ユーリのデータベースには僕
らの情報がかなり溜め込まれてるんだから」
「……」
  シエルは観念したように顔を上げた。
「……妹」
「やっぱり」
「アテネ=アルパイン。オレの妹。たった1人の家族」
  そうして、シエルはゆっくりと話しはじめた。
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