「?!」 絵麻はバネ仕掛けの人形のように、ベッドから体をはね起こした。 「今のは……?」 真っ暗な闇。鈍く輝く金髪と、血のような赫い瞳……。 不思議なことには慣れたつもりだったが、暗闇に浮かぶ赫い瞳というのは、 いかにも毒々しくて、怖かった。 「ホラー映画じゃないんだし……あ、でも動物殺してた気が」 絵麻は言いながら、額に浮かんだ汗をぬぐった。 周りは闇じゃない。 朝の光が、やさしく部屋の中を満たしている。 そのやわらかな光が、ここが闇とは全く違った場所だということを証明して くれている。 絵麻は大きく息をつくと、サイドテーブルにたたんだ制服の上に置いた、青 い石のペンダントトップに触れた。 「“光が優しくあるように”か」 心の奥にしまった大切な言葉を、絵麻は思い出した。 「本当のことだね、お祖母ちゃん」 そのままベッドからおりると、絵麻は眠る前にたたんでおいた制服に袖を通 し、ポケットに青い石のついたペンダントを滑り込ませた。 今は、絵麻がこの別世界──Gガイアに移動してから、3日目の朝。 体内に溶けた血星石を分離する方法が見つからない絵麻は、未だにここ、第 8寮にやっかいになっていた。 相変わらず殺風景な部屋だが、椅子の背にかけられたリュックサックやきち んとたたまれた衣服が微妙ではあるが生活感を添えている。 「けど、本当に変な夢だったな。現実もたいがい変わってるけど」 殺されかけ、右も左も知らない別の世界に飛ばされ、変な石を体内に取り込 み、パニックを起こして、家事をやって居候している。 これで変わり者じゃなかったら、誰が変わり者になるんだろう? 「こっちが夢で、あっちが現実だったりしてね」 絵麻は制服のスカートを直すと、少し膨らんだ、ペンダントの入ったポケッ トを上から軽くたたいた。 「今日も頑張ってみる。だからお祖母ちゃん、守っててね」 絵麻は軽快な足取りでドアに歩み寄ると、強くドアノブを握った。