【転章】
中央東部、リンラオ地区。
先日の武装集団襲撃事件の被害も最小限にくい止められ、人々はいつもの日
々を取り戻していた。
平和になった町では氷や雷撃を操る不思議な少年少女の存在がひとしきり騒
がれた。PCに問い合わせもしたのだが『そんな職員はいない』という解答で
全てが片付けられてしまった。
だから、街の人は何も知ることはなかった。
街外れの南の森で起きた殺人未遂事件も。
そして、その現場を訪れる、妖艶の美少女のことも。
鈍い輝きを放つダーティ・ブロンドを羽衣のごとく風に舞わせ、薄物の衣服
をまとった少女は森にひざまづいていた。
どす黒く血の跡が残るその地に。
「みーつけた」
少女の白く細い指先が、血に染まった大地から『何か』を掘りあてた。
濃緑に不規則に朱の班模様が描かれたその石は、流された血を吸って全体的
に黒みを帯びている。
少女の手の中で、石は強い輝きを放った。
「憎しみの力で、こんな強い血星石を作ってくれるなんて……NONETには
本当は感謝しなきゃいけないのかもね」
少女は湖面のように澄んだ青い瞳で、楽しげに笑った。
「ホントに感謝感激よ。憎しみバンザイ♪」
少女の姿が、ふいに生じた闇の中へと溶け始める。
「止めないでいてくれてありがとう。『平和姫』」
少女……不和姫はそう言ってアハハと高笑いした。
「次はアンタの血で石を完成させたいな。きっと素晴らしい力を持っているの
でしょうね」
パンドラの姿が闇に溶けたのを見る者は誰もいなかった。