戻る | 進む | 目次

  翔はその後ろ姿を不安そうに見つめていたのだが、ふいに横からの視線に気
づいて顔をそちらに向けた。
  リリィが探るような目で翔を見ている。
「リリィ?」
「・・・・・・・?」
「それは……」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
  リリィは声が出せない代わりなのか、直感力がかなり鋭い。
  翔は平静を装って絵麻を丸め込むのには成功したわけだが、リリィまでは騙
  せなかったようだ。
「・・・・・・・・・・?」
「『何があったのか?』って。大アリだよ」
  翔は肩をすくめた。
「唯美と封隼がケンカしたんだ。それで東側の防御が手薄になって」
  話をまとめるとこういうことだった。
  封隼は視線で範囲を定めることで強い念動力を使えるのだという。バラバラ
に武装兵を引き裂いたのはこの能力だ。
  封隼はいつものように力を使っていた。
  それに、唯美が反発したのである。
『それ、念動力でしょ』
『……』
『どうしてアンタが使うのよ?!  アタシたち一族の大切な能力なのに!!
  そんな残酷な人殺しに使うなんて最低よ!!』
  唯美は言って、封隼にくってかかった。
  封隼は敵の相手をしていたこともあり、最初は聞き流していたのだが、度重
ねて言われたときにムッとしたのだろう。
『あんただって同じ力を使うじゃないか』
  そう切り返したのである。
  唯美は一瞬動きを止め、それから烈火のごとく怒り出した。
『アタシは違う!  アンタたちみたいな武装兵とは違う!!』
『同じ“能力”だろ』
『違う!  違う違う違う!!』
  唯美はひたすら否定し続けた。
  その騒ぎに、他のメンバーの攻撃も手が止まる。
『アタシとアンタは違う!  絶対に違う!!  同じものだなんてありえない!!』
  唯美が絶叫した時、パワーストーンが暴発した。
  激しい音と共に空間が引き裂け、町への通路が開けてしまったのである。
『しまった!』
  攻撃を受けていなかった何組かの武装兵がその通路を使い、市街地へとなだ
れこむ。
『唯美、封隼!!  お前ら何してんだよ!!』
  押さえ役の信也が少し離れた場所を担当していたのが不運と言えた。
『何って、コイツに文句言ってたのよ。この武装兵に!』
『今はそんなことを言っている場合じゃないだろ』
『そうだよ。姉弟でケンカしてどうする?』
『姉弟なんかじゃない!  違う違う違う!!』
  唯美がまた錯乱しはじめたため、開けた通路が不安定に揺らぎ始める。
『とにかく、唯美。お前は市街地に入り込んだ武装兵をやってこい。封隼、お
前もな』
  2人が動こうとしなかったので、たまりかねた翔が叫んだ。
『僕が行ってリリィと合流してくるから、2人は後から来てくれ』と。
  信也はその提案を飲んだ。合流地点を南の森と定め、翔が先に武装兵の一組 
を追って市街地に乗り込んで来たのである。
  それがさっきの場面というわけだ。
「だから、唯美と封隼も市街地のほうに来てるはずなんだけど……」
「・・・・、・・・・・・・・・・・・・?  ・・・・・・・・」
「わかった」
  リリィの『早く武装兵を探そう』という言葉に翔は頷いた。
「唯美たちも上手くやっててくれるといいんだけどな」
  翔の心配する言葉だけが、リリィの耳になぜか残った。
戻る | 進む | 目次
Copyright (c) 1997-2007 Noda Nohto All rights reserved.
 
このページにしおりを挟む
-Powered by HTML DWARF-