完全にふいをつかれた形になったのだが、2人に武装兵の手にした刃が触れ
ることはなかった。
ザシュッ!
2人の視界を金色の光が掠める。
輝くばかりの金の髪持つ人物が、手にした透明な刃を持って相手を切り捨て
たのである。
「リリィ」
金髪の人物は切り捨てた相手をしばらく見つめていたのだが、名前を呼ばれ
ると振り返った。
切れ長の瞳は瑞々しい新緑の緑。透けるように白い肌。
内側から美しさが光り輝いているかのような絶世の美少女である。
「・・・・・・・・・・」
少女は暁色の唇を動かしたのだが、奇妙なことに声はしなかった。
「ごめん。ちょっと油断した」
「・・・・・・・」
「うん。気をつける」
少年――翔のほうは言葉がわかるらしい。苦笑いで聞いている。
絵麻は言葉はわからないのだが、雰囲気で彼女――リリィが守ってくれたこ
と、注意してくれているのだということは伝わっていた。
「リリィ、ありがとう」
言うと、リリィは返事の代わりに氷がとけるような、暖かな微笑を浮かべた。
手にしていた透明な氷の刃が、シュッと音をたてて消える。
深川絵麻。明宝翔。リリィ=アイルランド。
この3人はPCの対武装集団用非合法部隊『NONET』のメンバーである。
本来、PCは合法的に人々を救済していく団体なのだが、それだとどうして
も自由に動かせる戦力に限界が生じる。その壁を破って武装集団と対決してい
くため、代々の『Mr.PEACE』と呼ばれるPC総帥たちは一計を案じた。
自分の意のままに動かせる、非合法の軍隊を作ってしまえ、と。
膨大な戦力を持つ武装集団に匹敵する軍事力……必然的にMr.PEACE
はパワーストーンマスターを必要とすることになった。
マスターはたった1人で何十人の軍勢に匹敵する強大な力を操ることができ
る。それはさっきの翔の能力をみれば想像するにたやすいだろう。
隠密行動を目的とする非合法部隊にはうってつけの人材なのである。
翔は雷撃、リリィは氷(冷気)を操るマスターだ。
絵麻は虹色の光を使うことができる。ただ、その能力は未知数で安定しない。
NONETに入れてもらってはいるが、だいたい翔かリリィの後ろに隠れて
いる。
そもそも、絵麻は不思議な存在なのだ。
絵麻はこの世界――Gガイアの人間ではない。日本の神奈川県厚木市に在住
する1高校生だったのだ。
両親が仕事で海外に暮らしていた絵麻は母方の祖母、舞由に育てられた。
その祖母が絵麻の16歳の誕生日に不可思議な死を遂げ、形見として青い石の
ペンダントが遺された。
この世の全ての青を凝縮したようなラピスラズリ。
そのペンダントをめぐって、絵麻と姉、結女との間にいさかいが起こった。
結女はペンダントを自分のものにしようとした。けれど、絵麻は手放そうと
しない。
逆上した結女はそのペンダントで絵麻の首を絞め上げ……絵麻を殺したのだ。
そうして絵麻は死んだはずなだが、なぜかこうしてここに生きている。
ラピスラズリのペンダントと、その不思議な虹色の輝きを必要とされて、N
ONETに居場所をもらったのだ。
「そういえば、みんな終わったのかな」
NONETには絵麻たち以外にも、5人のメンバーが所属している。
「見に行ってみようか」