どうか、幸せでありますように

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どうか、幸せでありますように

 リリィの幸福を守っていくと、自分で決めた。
 リリィには、幸せになって貰いたい。そのためならば何でもできる。
 そう、決めていた――はずなのに。

「封隼、支度できた?」
 ノックもせずに入ってきた姉の姿に、封隼は僅かに眉を寄せた。
「まだネクタイしてないの? リリィはもう支度できてるのに」
「……結ぶの、苦手」
「貸しなさい」
 唯美は封隼の手袋を嵌めた手からネクタイを取ると、手際よく襟に結びつけた。
「姉さん、上手いね」
「いつもやってるもん」
 一度離れて、もう一度寄ってきてネクタイを真っ直ぐに直す。襟元のきつさに緩めようとした封隼の手を、唯美はぱしりとはたいた。
「こら、崩しちゃ駄目じゃない」
「こういうの、苦手だ」
「何言ってんのよ。アンタ花婿でしょうが」
 花婿という言葉に、封隼は今度ははっきりと眉を寄せた。そんな弟の様子に、唯美は吹き出した。
「相応しくないなって顔してるわね」
「だって、そうだろ」
 リリィを幸福にできるのなら、自分は何でもすると決めた。
 けれど、神の前で誓いを立てるのはともかく、自分がこんなきらびやかな格好をするのはどうにも性に合わないのだ。
「行きましょ。リリィが待ってるわよ」
 リリィには、幸福になって欲しいと思っている。それは本当だ。他の仲間が結婚したときのように、綺麗な礼服を着た友人達の笑顔に囲まれて、白いウェディングドレス姿で笑っているリリィを見たいと思っていた。
 でも、その隣にいる、モーニングコートを着た花婿が自分というのは――。
 礼拝堂の中に入っても、封隼はまだそんなことを考えていたのだが、自分の後からエスコート役の仲間に手を取られて入ってきたリリィを見たら、考えが吹き飛んだ。
 真っ白なウェディングドレス姿のリリィは、今まで見たどんな彼女より綺麗だと思った。
 そっと手を伸ばして、白いグラブを嵌めた手を自分のものに重ねる。強いと知っている手なのに壊してしまいそうで、上手く力が入れられない。
 目を合わせると、リリィは心から幸福そうに微笑んでいた。
 彼女をずっと守っていきたい。リリィがずっとずっと、幸福であるように、隣で守り支えていく。
 永遠の愛もいいかもしれない。けれど、自分が神に誓うなら、永遠の愛情ではなく、彼女を生涯守り抜く強さを持ち続けることだ。

 どうか、幸せでありますように。

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