嘘はつかないで

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嘘はつかないで

 リリィは嘘吐きだ。
 例えば、誰かが可愛い手鏡をひとつだけもらってきたとする。そうするとリリィは、真っ先に自分はいいとひいてしまうのだ。欲しくないの、と微笑んで絵麻やアテネに勧めてしまう。ピンク色だから唯美に似合うよとか、リョウは新しい手鏡欲しがってたよねとか、綺麗な理由を並べて。
 最初、封隼はリリィが本当に心からそう思っているのだと思っていた。リリィは聖女のようだと思った。
 ところが、実際の理由は「自分は汚れすぎているから、普通の女の子と同じものは相応しくない」というとんでもないものだった。それを知った時、封隼はリリィを怒鳴りつけてやろうかと思った。実行できなかった自分の感情表現の苦手さにもまた腹が立ったが、それよりもリリィのことを怒っていた。
 何で綺麗じゃないと言い張るのか。こんなにも綺麗なのに。
 リリィの綺麗さというと外見を指すのが普通の考えらしいのだが、常識外れの封隼は残念ながら、リリィの外見がどれだけ綺麗なのかわからないのだ。黄金を紡いだ髪に碧玉の瞳……らしいが、それが何だと言うのだろう。目に見えていることなんてたかがそれだけじゃないか。
 リリィの綺麗さは、外見より内面なのだ。仲間を気遣い、陰に日向に行動を起こす。例えば、決して評判の良くない自分をつききりで看病してくれるように。その優しさは誰が相手でも変わらない。
 封隼には、リリィが言い訳をしているようにしか見えないのだ。綺麗じゃないからと嘘をつき、自分に言い訳してしまえば確かに心は楽だろう。
 それを見ている方がどれだけつらいか、リリィはわかっているのだろうか。
 それどころか、リリィは封隼に「封隼が武装兵だったのは仕方なかったんだよ。誰も悪くなかったんだよ」と言うのだ。襲撃に遭い、守ってくれる家族を失ったのは封隼のせいではない。武装兵になったのも生きるためには仕方がなかったのだ。だから封隼は悪くなんかないんだよと、そう言って綺麗に笑う。
 封隼としては、そのセリフを該当部分だけ入れ替えてリリィにそのまま返したいと思う。そうしたらリリィは、年齢が違うとか、男女では違うとか、また耳障りのいい嘘を並べて逃げるのだろう。私は汚れている、とお決まりの台詞を吐いて。
 嘘をつくなと、怒れたらどんなにいいだろう。
 そんな悲しいことは言わないで欲しいのだ。誰がどんなことを言っても、自分が返り討ちにしてやるから。
 ……そう言えば、今度はリリィが怒るだろう。その怒りが真実であるといいなと、そんなことを思った。

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