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 翌朝。
「おはよー……あれ?」
 目をこすりながら絵麻が階下に降りて行くと、ばたばたと騒がしかった。
 ちなみに、今日は週末でPCは休みである。
「翔、爆弾の回路図これでいいの?」
「地図のプリント足りないからもっと印刷してー」
「え? 全員分刷ったじゃん」
「足りないもんは足りないの。哉人、早く早く」
「リリィ、何かあったの?」
 絵麻は手近にいたリリィをつかまえて聞いてみた。
「・・・。・・・・・・」
 リリィはポケットからメモ帳を取り出して。
『昨日、貴女が部屋に下がってから“仕事”の依頼があったのよ』
「仕事?」
『北部の、武装集団の前線基地を破壊してこいって』
「前線基地って、危ないんじゃないの?!」
『多分』
「たぶん、って……」
 絵麻は平然と言い切る(書き切る)リリィを恐れ半分、呆れ半分で見つめる。
 と、そこに信也が集合をかけた。
「おーい。作戦会議するから集まってくれー」
「・・・」
 リリィが絵麻の袖をひいて、空いていたソファの端に腰かける。
 ソファは大きく「コ」の字を書いておかれていて、全員を見渡せる議長席部
分に信也が、その両脇に翔とリョウがいる。翔の前にパソコンが来るようになっ
ていて、これが相談事をする時のいつもの配置だ。
 パソコンを覗ける位置に哉人がいて、唯美と封隼、シエルとアテネは一緒に
座っている。
 絵麻は基本的にリリィの側にくっついている。以前は唯美と封隼は離して座
らせていたのだが、最近はそうでもなくなった。
 そんな事を絵麻が漠然と思っているうちに、信也が机の上に、大きな見取り
図を広げた。
「これが北部の前線基地。縮尺……どのくらいだっけ?」
「だいたい100分の1だよ」
 翔が補足する。
「だから、相当広い。全員でかからないと見回れない。それで、各自受け持つ
場所を事前に決めようってことになった」
「だいたい均等に分けるとこんな感じなんだけど」
 翔が赤いマーカーで、地図にラインをひいていく。
「けっこう広いな」
「うん。だから、ペア決めて受け持つのがいちばんいいかなって」
「ペアか」
「俺がリョウとだろ、翔とリリィで、シエルと哉人で、唯美は……」
「封隼と行く」
「大丈夫?」
 リョウが心配そうに聞いたが、唯美は不服そうな顔で。
「もう前のアタシじゃない」
「そっか。愚問だったわね」
 リョウは安心したように目を伏せた。
「絵麻も来てくれる?」
 地図ともう1枚のプリントアウトを見比べながら、翔が言う。
「え?」
「僕たちと一緒のところ。壊すのには人手があったほうがいい」
「わたしでいいの?」
「絵麻、壊すの得意だろ」
 哉人がまぜっかえす。
 絵麻は虹色の光を操ることができるのだが、いつも暴発ばかりさせている。
「むうっ……」
 絵麻はむくれたのだが、哉人の言っていることは正しいし、それにNONE
Tとして働くことができるのは好きだった。
 自分を必要としてくれる人がいる。
 それは、自分の存在意義を証明してくれているみたいだから。
「いい? それとも怖いかな……ちゃんとフォローはするけど」
 遠慮がちに聞いた翔に、絵麻はぶんぶんと首を振って。
「大丈夫」
「本当に?」
「うん。わたしも翔とリリィと一緒に行く」
「爆弾の解体手順は翔がプリントしてくれたから、わからなくなったら通信機
で翔を呼び出して。通信機が鳴ったら、唯美は悪いけどポイントAに戻って瞬
間移動させてくれるか? 通信起点は俺がやるから」
「了解」
「じゃ、決行は今夜。というわけで解散」
 信也がこれで終わりとばかりに見取り図を取り上げる。
 その手を、アテネが止めた。
「待って、信也さん」
「アテネ?」
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