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「こんなちゃちなもの……本当に持ってたんだな」
  片手でプレートをいじりながら、シエルが小さく呟く。
「うん。だってこれ、アテネの宝物だもの」
  もう一方のプレートを抱いて、アテネがにこっと笑う。
「あの時ね、アテネ『お兄ちゃん助けて』って叫んでたんだ。お兄ちゃんは来
てくれなかったけど、ちゃんと助けてくれたんだね」
「……怖かったろ」
「ううん。大丈夫」
  言った後で、アテネが甘えるように付け加えた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「ぎゅってして。前みたいに、アテネのことぎゅってして」
「もう14歳になったんだろ?」
  シエルは苦笑いで妹のふわふわの髪に手をおく。
  けれど、アテネのほうはいたって本気のようで。
「ぎゅってして……」
  半分泣きそうな目でつぶやいた。
「わかった。これでいいのか?」
  シエルはそっと、片方だけの腕をアテネの体に回した。
  両腕で抱きしめてやることがかなわないかわりに、ぎゅっと力をこめて。
「きゃーっっ」
  アテネは歓声をあげて、シエルの胸にもたれかかった。
  ふわふわの髪が、ちょうどシエルの顎の下にくる。
「お兄ちゃんにぎゅっとしてもらうの、久しぶり。前はよくしてくれたもんね」
「そーだな。何かあるたびに抱きしめてたな」
「お兄ちゃん。あのね……」
  アテネはもじもじとしていたのだが、やがてぽつりと言った。
「アテネ、本当は怖かったんだ。4年前からずっと」
「……ごめん」
  シエルはアテネを抱く腕に力をこめた。
「オレがこんなんで、何もしてやれなくて……ごめんな」
  唇を噛んだシエルの頬に、アテネはそっと手を伸ばす。
「でもね、今は幸せなの。またお兄ちゃんに会えたから」
  にこっと笑う顔が、自分とよく似ていて。
  同じ色の髪。同じ色の瞳を合わせて。
「ずっと一緒にいてもいい?」
  アテネがおずおずと尋ねる。
「もちろん」
  シエルは言って、再びアテネを自分の胸に抱き寄せた。
「アテネが離れて行きたくなるまで、ずっと一緒だからな」
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