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1.彼らの“日常”

  Gガイア国中央西部、エヴァーピース。
  平和部隊『PC』本部があることで知られている、小さな地方都市である。
  周りを豊かな森にぐるりと取り囲まれたこの町では、人はPCで働くか、農
業に従事するかで日々の糧を得ている。
  PC本部の建物がある北側からひらけ、商店や学校、病院、住宅街などの機
関が集中している。南の方に緩やかに下ると、風景は次第にのどかな田園風景
となり、建物は目につかなくなってしまう。
  そんなエヴァーピースの南端に、孤児院があった。
  玄関へ続く別れ道のところには大きなトチの木が葉をしげらせ、この下をく
ぐって学校や遊びに行く子供達に日陰を投げかけてくれる。その先に見えるの
はぐるりと小さな農園に取り囲まれた前庭と、古びた灰色の建物。
  前庭からはもう11月だというのに、子供達の元気に遊ぶ声がきこえてくる。
「ドッジボールしよう!」
「チーム決めよう!  ジャンケンポンッ!!」
「こっちの陣取った!」
「じゃ、ボールはこっちな」
  ぱっとチームに別れた子供達は、元気にボール遊びをはじめる。
  4歳〜10歳くらいの子供たちだ。男の子が多く、年かさの女の子たちは3つ
くらいの赤ん坊の面倒を見ながら窓から遊びを見ている。
  そこに、1人の少女がやってきた。
「こんにちは」
  肩にふれるかふれないかの黒髪の左をピンで止め、茶水晶のような明るい瞳
は子供達と同じように輝いている。
  普段着ている変わったカッティングの制服ではそろそろ寒い時期で、少し長
めの、綺麗な瑠璃色のカーディガンを羽織っていた。
  腕には中身がいっぱい詰まった紙袋が抱えられている。
「!  お姉ちゃん?」
  少女の声に、ドッジボールで外野にいた女の子が敏感に反応した。
  2つに結んだ栗色の髪と、同じ色の左目。右目は厚い布をあてた上から包帯
でぐるぐる巻きにされている。
  着ている服は相変わらず古ぼけたものだったが、それでもちゃんと暖かそう
なファーがついていた。
「お姉ちゃん、絵麻お姉ちゃんでしょう?」
  栗色の髪の女の子は絵麻と呼んだ少女に向かって走りだしたのだが、その足
元を庭にいたずらにはっていた木の根がすくった。
「きゃっ……」
「フォルテ」
  慌てて少女──絵麻はフォルテを抱きとめる。
「大丈夫だった?」
  フォルテはよく見えない左目をすがめていたのだが、やがてにこっと笑った。
「やっぱり、絵麻お姉ちゃんだ」
「こんにちは、フォルテ」
「今日は何しにきたの?  フォルテたちと遊んでくれる?」
  絵麻は持っていた紙袋をフォルテの前にさしだした。
「クッキーを焼いたの。みんなに食べてもらおうと思って」
「わあっ♪  フォルテ、絵麻お姉ちゃんのお料理大好き」
  クッキーという言葉に、ざわざわと子供たちが集まってくる。
「お菓子があるの?」
「ねえ、ね。食べていい?」
「まだよ。シスターに渡すから、ちゃんと分けてもらってね」
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