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  教会は古ぼけて、ペンキのはげかかった建物だった。
  教会を見る機会は前々からあったのだが、今までみたどれとも違う。
  雑草に囲まれた、例えるなら田舎の古びた集会場、といった感じか。
  ただ、建物の古びた印象にくらべると随分と派手な歓声が教会からは聞こえ
ていた。
「何してるんだろ?」
「・・・・・・・・」
  リリィは頓着せずに歩きだした。
「ねえねえ、ボール投げて!」
「ケネスが転んでケガしちゃった」
「カノンお姉ちゃん、洋服が破れちゃったぁ」
  幼い子供の声だ。
  カノンの名前を聞いて、絵麻は足を速めた。
「はいはい。ちょっとだけ待ってね」
  古びた建物の前庭には、何人もの子供が遊んでいた。
  金、茶、黒……いろんな髪の色。どの子も質素な身なりをしていて、包帯を
巻いていたり傷痕があったり。それでも無心に遊んでいる。
  遠目には雑草に見えたそれらは畑で、ぐるりと子供たちと建物とを囲んでい
た。
  そして、そんな囲まれた中に、カノンがいた。
  ケガをしたらしい男の子の足に布を巻いてやりながら、優しく話しかけてい
る。
「大丈夫だよ。カノン姉ちゃんが手当したからね。もう見えないでしょ?」
「うん」
「泣いてちゃダメ。強くないとね」
「うん」
  男の子を立たせて遊び仲間の輪の中に戻してやったカノンの視線と、絵麻た
ちの視線とがかちあう。
「カノン」
「2人ともいらっしゃい」
  カノンはいつもの笑顔を見せた。
「あ……あの……」
「驚いた?  すごい状態でしょ」
  言葉が見つからない状態の絵麻に、カノンは両手を広げてみせた。
「ちょっと待っててね。フォルテの洋服繕ってあげなきゃ」
「・・・・・・・」
  ポケットから裁縫道具を出したカノンにリリィはためらいもなく近づくと、
傍らにいたスカートを裂いてしまった女の子と裁縫道具とを交互に指さし、最
後に自分を指した。
「え?  やってくれるの?」
  リリィは頷いた。
「ありがと。フォルテ、リリィお姉ちゃんが縫ってくれるんだって」
「リリィお姉ちゃん?」
  カノンの傍らに立っていた栗色の髪をした女の子が振り向いた。
  右目には布がまきつけてある。女の子は片方しかない瞳をすがめながらリリィ
を見ていたのだが、やがてぱっと顔を輝かせた。
「リリィお姉ちゃんだ!  また来てくれたの?!」
  リリィは笑顔で頷くと、カノンから裁縫道具を借りて女の子──フォルテの
傍らにひざまずく。
「絵麻、こっちにおいでよ」
  カノンは座っていた入り口の、平たくなったスペースを絵麻に示した。
  そこからだと前庭がちょうど見渡せて、そこで遊ぶ子供たちの様子がすぐに
わかる。
「ここが孤児院なの?」
「うん。あたしはここにお世話になってるの」
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